博士論文 『博物館という社会システムの発展に果たす市民の役割 : インターネットを使った支援の仕組みの提案』

http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=KO40002002-00002010-3503

抄録

本論文では、日本における公共の文化・教育システムの一つである博物館を継続的に発展させるための方策として「市民の貢献」と「インタ-ネットの活用」の2つの観点に基づく仕組み作りを論じる。博物館に関心を持つ市民がインターネット上で行う自主的な活動に着目し、その活動を博物館の広報の支援に結びつける仕組みを考案し適用の試行を行った。さらに、博物館に関心を持つ市民の活動の調査結果から、第3の観点として「市民の博物館に対する関心の広がり」の様相を分析し、その結果を用いて市民の自主活動の広報効果を向上させるための仮説を立て、その検証を試みた。

第1章では、博物館の現状を概観した。戦後、地方公共団体等により積極的に博物館が設立され現在では全国に数千館が運営されているが、館数増加の歴史と並行して、社会環境や博物館の利用ニーズも変遷してきた結果、現状の博物館を今までと同じ方法で維持するのは容易ではなくなってきている。この問題への対応のために筆者が設定した2つの観点の1つが市民による支援であり、もう1 つがインターネットの活用である。

第2章では、博物館の管理者側のインターネット対応の現状を示し、市民の期待に対して十分ではないことを示した。そして、市民が特定の展覧会情報にアクセスしている事例を参考に、博物館のウェブサイトの改善に関する提案を行った。

第3章では、博物館の活性化のためにインターネットを活用する主体者として、博物館に関心を持つ市民に目を向ける。そして、インターネット上で博物館への貢献に結びつく活動を行う市民の出現を示す。博物館や展覧会に関する記事を自主的に執筆・公開している「博物館ブログ」の調査結果が示唆するのは、市民の関心は特定領域に関係した複数の博物館に広がっているということである。これを、第3の観点とする。

第4章では、展覧会の運営者が市民に対して明示的に「展覧会に対する貢献」を呼びかけ市民の自主的な活動の喚起を試みた事例を扱う。試行の結果として、市民の支援を集めることが可能であることと、活動の効果が明確に測定できることを示した。

最終の第5章では、日本の博物館の継続・発展を支える手法のひとつとして、博物館に関心を持つ市民がインターネットを使って支援活動を行うことが有効であることを結論付けた。さらに、第3の観点をもとに、博物館ブログを結合する中継サイトの構築が市民の貢献の効果を増幅させる可能性について述べた。