http://www.jmma-net.jp/katudou/18taikai/18taikai.html
<発表タイトル>
「利用者文脈に基づく博物館群の活用の提案-“自分史作成”のための材料としての博物館活用の事例- 」
<要旨>
- はじめに
クリステンセンは、高品質な製品が、質は劣っても新たな特色を持つ製品の前に力を失う理由を「イノベーションのジレンマ」として示した。既存プレーヤーはその強みを生かそうとすればするほど新しい価値を生み出す破壊的イノベーションを行えない、というジレンマである。
Webの普及によって破壊的イノベーションが行われたビジネスのひとつが旅行業界である。観光旅行の消費者と、宿泊施設・交通手段・体験/見学/鑑賞等、価値を生む最終的なオブジェクトとを結びつけるパスは過去15年ほどで様変わりした。
- Web登場以前: 旅行代理店がオブジェクトを標準的なパッケージにして提供
- Webの普及で生じたこと: 消費者が個別商材に直接アクセスして自ら組み合わせ
社会の変化を追ってイノベーションは継続中であり、試行錯誤の提案の中には成功事例も出てきている(例:希少オブジェクト調達・専門ガイドによる付加価値、等の付加価値企画の立案)。
旅行業界/オブジェクトを、ミュージアムや資料に置き換えて考えたとき、何が起きているか、これから何が生じ得るのかを考えてみたい。
- 市民とミュージアムの関係の構造変化
ミュージアムが自らのウェブを立ち上げていた段階では、ウェブは単なる新しい情報チャネルにすぎなかった。しかし、市民側がWeb空間に自らのエージェントを持つことが、市民とミュージアムの関係に構造変化を引き起こしつつある。ブログやSNSといった新世代のツールによって市民のエージェントは質・量ともに無視することができない段階に入った。
Web空間上の複数階層に出現した多数のノードにより、特定の個人と特定のミュージアムを結ぶパスの数は急激に増加している。ひとつひとつのパスの影響度は小さくとも、キュレーションサービス等の新世代ツールの登場によりさらにパスの数は増加していく。その効果によって、市民による博物館/資料へのアクセスと利用の形態にまで大きな変化が訪れることになろう。
- 参考資料
イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき(クレイトン・クリステンセン)
「博物館に関心を持つ市民に関する調査手法の提案 -ブログの解析-」「日本ミュージアム・マネージメント学会研究紀要」第15号,2011,pp.15-24.