全日本博物館学会第49回研究大会『中央区まちかど展示館のWebサイトのアクセス解析』を発表しました

発表順(17) 2023/07/02午前中 発表15分,質疑5分

國學院大學 (〒150-8440 東京都渋谷区東4-10-28)

要旨

◆問題意識: 博物館のWebサイトは、どのように市民に使われているのか

市民が利用する情報ツールとしてインターネットは欠かせないものになった。インターネット上で博物館の情報を市民に伝達する手段は様々あるが、2023年時点でWebサイトの運営は依然として極めて重要である。発表者は、2009年頃から市民の視点からその状況の観察(※1)を始め、10年経過後の変化を報告(※2)した。このような横断的・一般的な状況の鳥瞰に加えて、Webサイトの管理者のみ入手できる内部情報も含めたより詳細な個別の虫瞰も他の博物館の参考になると考えており、機会があれば分析や改善策の立案に関して協力をしている。

◆東京都中央区の「まちかど展示館」のWebサイトへのアクセスを分析する

中央区は、東京都区部の中央に位置する「都心3区」の一角である。江戸時代より文化・商工業・情報の中心として発展してきた歴史と伝統を誇る由緒あるまちである。繁華街・商業地、オフィス街に加えて、近年は湾岸地域で住宅が急増しており2016年から5年間の人口増加率は19.29%で、全国の自治体で第一位である。区民部文化・生涯学習課は、地域の文化資源の拠点として29か所をたばね「まちかど展示館」として整備し、地域の有識者と協力者からなる運営協議会を設置している。


「まちかど展示館」には専用施設の他に、商業用店舗内の一部、路面の展示などが含まれており、野外博物館の一形態とみなすことができる。また、博物館法の改正で新たに目的に加えられた文化芸術基本法の精神にも基づく活動といえる。
展示館の広報手段として、印刷物のパンフレット等に加えWebサイトが開設されている。運営協議会の年4回の会合でアクセス状況の概略を共有してきたが、これまで具体的な問題意識醸成や改善活動には結びついていなかった。
発表者は、2022年に内1施設の責任者と接点ができ、区・運営協議会の了解を得て蓄積データの分析を行った。市民がどのように「まちかど展示館」29施設の情報にアクセスしているかを分析する中で、特にその中で新たな関心を引き出している想定外の成功の発見に焦点を絞り詳細に解析を行い、さらなる発展の機会を識別して改善策案を作成した。

◆どのようにアクセスの解析を行い、結果として何がわかったか

まちかど展示館のWebサイト(※3)に対し、Google社提供のGoogle Analytic(GA)と Search Console(SC)を用いた分析を行った。
GAの分析結果(分析対象:2016年4月以降の約7年間)の概略を示す。       

  • 全セッションの66%は、モバイルからのアクセス(2023年5月)
  • 検索によるアクセスが8割
  • 国内からのアクセスは、8割が一都三県から
  • 過去4年、海外からのアクセス急増(それに応えるコンテンツの整備の不足認識)
  • 特定のコンテンツへのアクセスの集中(トップページへの着地は全体の10%程度)
  • 着地コンテンツからの関心の広がりのばらつき(ページリンク構成の再考の必要性)

さらにSCによる検索ワードを分析(分析対象:直近約1年間)することで、アクセスの多くは、本施設の直接的な検索によるものではなく、市民が関心をもって検索を行う過程での偶発的な立ち寄りであることが推察できた。このようなアクセスの背景にある市民のニーズに着目し、まちかど展示館が持つコンテンツと市民とがつながる可能性をさらに高めるための施策を提示する。

◆今後どのようなアクションに結び付けていくか

2023年1月開催の運営協議会で「WEBの分析と改善案(私案)-成功していることの発見に焦点を絞って」の説明を行い、関係者の理解を得て改善策の実施が開始された。発表者は、2023年度から運営協議会にWEB関係の学識経験者(委員)として参加することになった。今後、実際の継続的な改善活動に貢献し、追って成果の発表につなげたい。

【備考】

Webサイトのアクセスについて、絶対的評価指標や改善のための定形的な手法はない。また、まちかど展示館が持つ課題には、他施設と共通性のある一般的な事項と、個別の事情による特殊な事項がある。必要に応じて比較対象として今回の対象施設以外について参照する。

  • 近隣地域、テーマに共通性のある博物館
  • 教育機関のWebサイトの事例(10年単位の改善活動実績事例として)

【参考】

※1 論文「公立博物館のウェブサイトの現状と課題 — 一般市民からの視点による分析と、価値向上のための施策の提案」本間浩一 博物館学雑誌 35(1), 1-23, 2009-12
※2 発表「博物館のテキストによるコミュニケーションのデータ分析」 本間浩一 全日本博物館学会第45回研究大会 2019/06/23 
※3 https://chuoku-machikadotenjikan.jp/