『民俗資料のメタデータの現状調査:特に、家庭用ミシンを事例として』を発表しました。全日本博物館学会第50回研究大会

発表順(18) 2024/06/30午前中 発表15分,質疑5分

北海道開拓の村ビジターセンター(北海道札幌市厚別区厚別町小野幌50-1)

◆課題認識と目的

 電化製品や大量生産品、その他の生活資料や産業資料を含んだ「民俗資料」は、学術的な評価が得られず死蔵につながりやすく、一部で資料の廃棄や譲渡が始まっている。このなかから量産品や工業製品を含む用具製品に焦点を当て、博物館での収集保存と活用のあり方を考えていきたい。
地方博物館や小規模館による連携と役割分担、複数館の学芸員の機能分化の可能性を視野に入れる。
本発表では、5つある研究項目の中の「3.検索用のメタデータの追求」を扱う
収蔵品情報の整理と管理の概観
 「博物館収蔵資料の保管と活用に向けた調査研究(公立博物館アンケート調査結果)報告書」(2024年5月、調査担当 法政大学 石川貴敏)等を参考に、館の規模に応じて博物館各館の収蔵品管理システムがどのように実装されているか概略を示す(上図 左部)。
 各館の資料情報を当該館のWebで公開する事例は増えてきているが、規模が大きい館が先行している。他方、インターネット上の横断的な検索サービスの普及が進んでおり、小規模館の情報公開に役立てられている(上図 右部)。

◆調査の対象 (資料、博物館、地域)

 「民俗資料」についての具体的な調査を進めるために、第一段階では23種類(名称)を選んで公開情報および複数の小規模館から貸与された内部管理情報で検索を試行し、資料名称(漢字/かな、別名等)、資料情報の項目建て、入力率、入力量の実態の見通しを立てた。その結果、重点対象を絞り込み、資料は6種類、地域は北海道とした。重点資料の内の2種類は北海道内の独自の状況の確認を意図している(“たこ足”、 “バチバチ” )。また、未公開(公開に向けて準備中の場合を含む)の情報開示を依頼する場合は、資料の種類を少数に限定する必要があり2種類選んだ(最優先は“ミシン”、次に“オルガン”)。
 第二段階の調査では、予備調査の知見に基づき直接インタビューで詳細の聞き取りを進行中である。インターネット上で資料情報を公開していない場合は、EXCEL等の形式の全件情報、ないしは検索ワード“ミシン”で抽出した1件単位のデータの貸与を受けている。

◆調査での発見

 地域の小規模館を含めて、資料情報の公開が進む技術的な環境は整ってきている。ただし、公開項目は管理項目の一部であり、名称を含む数項目と写真程度が多い。学芸員は地域での利活用を進めるために文脈(来歴、ストーリー、役目、聞き取り、等)が重要情報であると考えているが、今回確認した資料情報には多くの場合含まれていない。その結果かもしれないが、学芸員が他館ないしは横断的な公開情報を積極的に検索し活用している事例は確認できなかった。

◆今後の調査

 地域小規模館の調査に加え、別の文脈で当該資料に関係する情報を保有していると思われる他施設(産業系の博物館、地域に関係を持つ文学館や個人記念館等。)の可能性も探りたい。事例として、製造・販売の文脈でミシン資料を所有しているブラザー工業を挙げる。